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風鈴茶房繁盛記(仮)

#2悲しみの色

今日のお店はちょっとブルーに染まっているのです。
原因は先ほどあった出来事に起因しています。
恋人同士と思われる男女の別れ話がこのお店で
繰り広げられました。
原因は浮気だったのか、他に好きな人が出来たのか、
それは良くわかりません。
その光景を見ながらマスターは私に耳打ちします。
「沙夜璃ちゃん、覚悟しておけ」
「しゅ、修羅場ですか?」
ドラマで見たことはありますけど、目前で繰り広げられるのは
初めてでした。
怖いと思いながらも少しだけ期待してしまったのは不謹慎だと
少し反省。
「そろそろだなぁ」
私とマスターは覚悟しました。
けれど以外だったのが男性も女性もあっさりと別れを承諾して
いました。
「拍子抜け……だな」
「あっ……はい、そうですね」
けれど男性も女性もそこから立とうとせず、ただじっと顔を合わ
せず窓の風景を見つめています。
「どうしたんでしょう?」
普通なら席を立って別れるのが普通だと思いますが、そうでは
ないようです。
「さぁな、だが営業妨害なのは確かだな」
店にはいつのまにか誰もいなくなってしまいました。
お勘定についてはマスターがちゃんとやってくれていたようです。
……ちょっと反省。
そんな私を見て見ぬ不利をしながらマスターは黙々と洗ったカップを
拭いています。
私も落ち込んでいられません。
空いたお皿やらカップを片付けたり黙々と仕事をこなします。
その間にも時計は時間を黙々と刻み続け、やがて仕事もなくなり
私はカウンターの席に座りぼーっとしてみます。
「…………」
無言で置かれる私専用のカップに並々と注がれたカフェオレが
置かれました。
「マスター」
「疲れたろ、飲んで一休みだ」
「はぁ〜い」
カフェオレに口を付けると味が少し違うことに気が付きます。
「マスター、これ?」
「カフェモカだ。エスプレッソにミルクとチョコレートシロップを
入れたものだ。少し甘いかもしれないが疲れた身体にはいいだろ」
「ん、おいしいですよ、これ」
それはカフェモカの魔法なのか、私の表情に自然と笑みが
こぼれます。
そしてこの喫茶店の中で別の空間と化した一画を覗き見ますが
未だ動きはないようです。
「どうしましょう?」
「ほっとけ」
「で、でも……」
どうにかできないのかというもどかしさが私の胸で渦巻いてます。
「何か出来るのか?」
「…………」
私はマスターに反論出来ません。
確かに先程までは私に何か出来るだろうと思っていました。
けれどその考えは浅はかだったのかも知れません。
「放って置くのが一番だ。あいつらの悲しみなんぞ結局、誰も
解りゃしないのさ。よく誰かが誰かの気持ちが良く解るとなん
ていうけれどそれは嘘さ。それは経験したその人でなけ
れば絶対に解らないんだ」
私は無言で頷く。
マスターの言葉を自分の中で反芻する。
……確かにその通りだわ。
「でも普通なら席を立って別れるじゃないですか、ドラマ
だってそうだし……」
「どうして席を立てないのか知りたいのは当人達だろう」
「じゃあどうしてですか?」
「考えるんだな」
そう言ってマスターは笑いました。
私の頭にはきっとはてなマークが浮かんでいる筈でしょう。
「真実は小説よりも奇なりってな」
「そう……なんですか?」
「そういうもんさ」
そして私とマスターは顔を見合わせて笑いました。
この後、またちょっとした物語が繰り広げられるん
ですが、それはまた今度にでも……。



B.G.M:「君と夜空と坂道と」いとうかなこ